Digital Enterprise Journal の創始者である Bojan Simic 氏に、ビジネス変革と IT オペレーション、そしてデジタル時代への対応のために IT ができることについてお聞きしました。

デジタル化についてまず、Simic 氏は、「デジタル化という言葉は、実際には明確な定義が確定しておらず、人によって様々に解釈可能な言葉の1つです。」と、切り出しました。人々はこの言葉を、競争上の優位性を強調するために持ち出すことが多いようです。

ブロックバスターとネットフリックスとの闘いを考えてみてください。良い映画があまりなく価格も高かったブロックバスターが敗れ、テクノロジーと配信方式で優れていたネットフリックスが勝利しました。

とにかくテクノロジーを活用しなければならないと不安に駆られた企業は、IT 部門に、「それを可能にするもの」を作り上げるよう求めました。(そのような経緯で作られた)モバイル・アプリケーションやウェブサイトの新しい機能などは、ビジネスへの影響を考慮することなく作成されました。しかし、現在、多くの企業がそれを逆転させようとしています。 「彼らは、ビジネスモデルの中にテクノロジーを取り入れ、ビジネスとしてテクノロジーを展開していく方法を模索しています。と Simic 氏は述べます。

Amazon が従来型の実店舗から決別して、店舗をオンライン Web サイトに置き換えた経緯を考えてみましょう。あるいは、Facebook がインターネットのカバーする範囲を広げるのにドローンや衛星技術を研究しているという現実を見てみましょう。それは、ビジネスモデルを構築するテクノロジーであり、デジタル化の基盤です。

Simic 氏は、このテクノロジーを強く支持する理由について尋ねました。以下のようなことが根底にあるようです。

1)デジタル体験に投資している。
2)製品とサービスの境界がぼやけている。

「ビジネス展開のシナリオににテクノロジーを取り入れるには、全体的な戦略の観点が必須です。」と Simic 氏は話します。ビジネスとしてテクノロジーを組み込むという目標を達成するためにはトップダウンの戦略が必要です。微調整はそのあとに可能です。

デジタル化した世界の IT

世界のさまざまな場所で、私たちの日常を揺さぶりかねないような面白い開発が行われています。自動化された車が輸送業界の再編成を余儀なくするかもしれないという状況はその一例です。

Simic 氏の IT オペレーションに関する調査は、デジタル経済におけるITオペレーションを管理する際に、組織が重点を置くべき14の項目をまとめています。Simic 氏は、「たとえばクラウドについて考えると、企業のイニシアチブになるまでには時間がかかりました。」と指摘します。また、テクノロジー進化の顕著な例は携帯電話からスマートフォンへの進展があります。当初は携帯電話で電子メールを確認できるようにしたいと考えるような人はほとんどいませんでしたが、技術開発は徐々に進行しました。

「今では、さまざまなテクノロジー – ビッグデータ、モノのインターネット – が、はるかに速いスピードで進化しています。この状況は、IT オペレーションもテクノロジーの著しい進化に対処せざるを得ないことを意味します。」と Simic 氏は話します。

IT の役割は10年、15年前とはまったく変わってきています。昔は、ネットワークを稼動させたり、プリンタを修理したりするようなことが IT の主な仕事でした。ハイブリッドのクラウドサービスや、扱わなければならない膨大な量のデータを考えただけでも、現在の IT  の果たすべき役割の複雑さは明瞭です。

IT は、かつてなかったほど真剣にテクノロジーの活用を検討する必要があります。「複雑さのレベルは極めて深く、いくつかの異なる画面を見ながらすべてに対処することは人間ができる範囲を超えています。」と Simic 氏は考えます。すべての顧客の何十万台もに及ぶ車両を監視しようとするのであれば、スタンダードな監視ツールで行うことは不可能でしょう。機械学習分析が必要になります。

複雑性の問題を克服

対策の誤りは高額な出費につながります。「半年ほど前に、大手航空会社でソフトウェアの不具合が発見されました。その代償は、数億ドルの損失と悪化した評判でした。」と Simic 氏は話します。自動車業界での不具合は、評判を落とすどころか、命さえ落としかねません。

監視しなければならないものの量は、年々指数関数的に増加します。「監視すべきものの増加に対処しようと IT 部門に2名補充する、といった方法をとっていると、追っかけゲームになってしまいます。」と Simic 氏は話します。

もっと優れた方法があるはずです。それは自動化であり、機械学習の導入なども考慮すべきでしょう。

製品開発における IT の役割

IT とデジタル化を考える際に、車を例にとるとわかりやすいかもしれません。最新のぜいたくな車には、リアビューモニターや12インチのディスプレィ、そのほかの種々のクールなツールが満載されています。ところが、搭載された GPS は、スマートフォンの GPS などよりも機能が劣っていて、後から GPS を買い換えなければならなかったりします。このちぐはぐさは一体どうしてでしょう。製品デザインに関して、自動車業界の IT 部門は主要な役割を任されていないように見えます。

「群盲象をなでる」のような現象が見られます。システムを作成した人はそれを車に組み込んだ人とは違い、システムの使われ方を調査した人とも違います。

Simic 氏は次のように話します。「人々が IT に求めるのは、自転車を製作しないでくださいということです。自転車全体はいらない、ただタイヤが欲しい、ハンドルが欲しい、という要求を出します。テクノロジーが進化しているので、それらさえあればあとは自分で完成されられます。」

製品開発やシステム開発において、売ろうとしているものとITが提供するものの間には大きな隔たりがあることがあります。顧客がどのようにそれを使用するかを見極めることなくそれを構築するよう、IT 部門に要求すると、製品にちぐはぐさが出てきてしまいます。

「API が重要になってきますが、必要なのは、ツールではなく、部品です。顧客が望むものに合わせて、製品開発における IT の役割を考えていくと、IT が提供すべきものは完成された製品ではなく完成された部品なのです。」と Simic 氏は話します。部品という形で完成していれば、消費者は他のスマートデバイスとの統合が可能になります。

優良企業(Top Performance Organization, TPO)の特性

すでにデジタル化に成功している企業や先見の明がある企業は、IT 対処も適切なように思われます。Simic 氏は次のように話します。「IT オペレーションは、全体的に見てまだ遅れています。IT が理解されていないわけではありませんが、IT の組織内での役割への認識の問題です。多くの企業が、まだ IT オペレーションを、ライトを点灯させ続けることのように見做しています。」

IT の予算は、大きく2種類に分類されます。一つは維持・管理であり、ライトを点灯させ続け、ネットワークを稼動させ続けるために必要な予算枠です。もう一つはビジネス・バリューを構築するためのものです。

「IT 予算の72%はまだ維持・管理のために費やされています。すべてが常に利用可能で、正しく機能しているかを確認するのに精一杯です。」と Simic 氏は話します。「競争上の優位性をもたらすビジネス・バリューを創出するために使える予算は、平均28%です。」

Simic 氏の DEJ で、優良企業(Top Performance Organizations, TPO) がどのような IT オペレーションを行っているか分析したところ、トップ20%の企業が、イノベーションと成長にあてた予算は IT 予算全体の50%を超えていました。

優良企業は、「効率化で、問題解決のために費やす時間を短縮する術を心得ています。」また、自動化、分析、機械学習などにも積極的で、顧客の利益を重視する文化を持っていることも、これらの優良企業に共通する特性です。